2021年11月23日から29日にかけてアメリカ・ヒューストンで行われた卓球世界選手権。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年の韓国大会は中止となり、2年ぶりの開催となった今大会。男子日本代表としてシングルス・ダブルスに参戦した森薗政崇選手にインタビューを行い、前後編に分けて大会を振り返る。
(取材協力=中目卓球ラウンジ)
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後編では、世界選手権での戦いやダブルスを組んだ張本智和選手について、試合を終えての収穫や今後の目標などについて伺いました。
- 目次
- シングルス1回戦では対策が奏功
- 2回戦敗退で見えた課題「相手の質が高かった」
- ダブルスで張本智和選手とペア「これからが楽しみ」
- 「卓球は面白い」楽しみながら進化し続ける
- 【森薗政崇選手プロフィール】
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シングルス1回戦では対策が奏功
ーここからは試合について振り返っていきたいと思います。シングルス1回戦はデニ・コズル選手(スロベニア)との対戦でした(ゲームカウント4-0で勝利)
デニ(・コズル)は僕が元々いたドイツのチームで、今選手として活動しているんですけど、僕がドイツにいるときも1年練習だけ被っていたので、1年間一緒に練習した選手で癖とかよく知っていたんですけど。
今回、世界卓球の前の国際大会で、日本のTリーガーの神巧也選手(T.T彩たま所属)に勝っていて、すごく強くなっているなっていう印象があったんですけど。
その神さんの試合をたくさん見る中で、前と変わっている部分があって。サーブの種類が増えていたんですよ。卓球って本当にサーブが取れる取れないだけで、いろんな歯車が狂って自由にできなくなっちゃうので、すごいプレッシャーがあったんですけど。
それを先に映像で見て知ることができたんで、ドイツの今のブンデスリーガに出ている人たちに「あのサーブ、どんな感じ?」ってリサーチをして、「あ、基本的に下が多いな」って。で、「振りになったら上だよ」っていう情報が聞けたので、それで結構、落ち着いてできて。
最初にいいレシーブを僕ができたので、相手も「あ、効かない」と思って(サーブを)出して来なくなって。それでそのサーブを封じて、差をつけて勝つことができたので。かなり自分の思っていたデニより、ガッと成長していたけど、その分しっかりと対策をして臨めたので、かなりいい試合ができました。
ー熱い展開の試合でしたよね
そうですね。まさに出だしは絶対その新しいサーブを出してくるんですよ。ということは聞いてたし、映像で見ていたので、「出だし勝負だな」と思ってバッと点数を離したんですけど。中盤、その新しいサーブを出されて2本取られちゃったのかな。
2本うまくレシーブができなくて、取られてしまって追いつかれたんですけど、「そういうもん」っていうことで慣れて、最後、接戦で出したサーブをうまくレシーブできて。1ゲーム目を取ってだいぶ余裕もできましたし、相手もそのサーブ出せなくなっちゃったんで、もう2ゲーム目以降はかなり僕のペースで進められたかなとは思います。
ー勝った時の気持ちはいかがでしたか
本当に世界ランクでは結構差が開いてるんですよ(森薗選手56位に対してコズル選手108位)。数字上では差が開いてますけど、今のこの世界ランクシステムって試合に出れば上がるし、出なかったら下がるし、本当に力と数字が比例してないシステムなので、あまり参考にはならないなと思って。
前回、対戦したときにセットオール(次のセットで勝敗が決まるケース)のデュースでギリギリ勝つことができたんですけど、そのときのイメージがあったから、すごい苦しい試合になるなと思ってたので。
それが、かなりうまくいった内容の試合で勝てたので、やっぱりこの期間に僕も成長できるのかなっていうのは感じました。
ー勝利して2回戦に進むわけですけど、1回戦と2回戦の間ってどれくらいあるんですか?
1日です。デニの試合の次の日に黄(鎮廷=ウォンチュンティン)選手(香港)の試合がありました。
-その1日の間はどういった感じで過ごしてましたか?
もう基本的に、そこから1日とか数時間で卓球が強くなることは絶対にないので、もう「やることはやった」と思って、試合が終わったらクールダウンをして、帰って次の日に備えてすぐ休みました。
2回戦敗退で見えた課題「相手の質が高かった」
ー2回戦の試合はいかがでしたか(ゲームカウント1-4で敗戦)
そうですね。正直、もうちょっと何かできたのかなとは思うんですけど、それ以上に相手のコンディションよかったなっていうのが正直なところですかね。
ー黄選手との対戦経験はこれまでにあったんですか
あります。Tリーグも彼出てきてましたし(琉球アスティーダ所属)、その前のツアーでもやってますし、勝率は全然良くはないんですけど、勝ったこともあるし。最後にやったときはセットオールの9で負けて、すごくいい試合ができたので。
点数だけ見たらもっとできたのかなっていうのは正直思ってますけど、ただ、自分のやりたいことはできたし、それ以上に単純に相手の質がすごい高かったなっていうのが印象なので。
負けはしましたけど、すごい納得のいく満足な試合でした。
ー課題も見えたりとか
そうですね。今回の試合で分かった課題っていうのが、戦術とかサーブ・レシーブっていうのはほとんど負けてない。
むしろ、僕のほうがうまい具合に展開はできていたと思うんですけど、結局パワーとボールの回転量、僕らは「質」っていうんですけど、この質で押されて、いつも取れてるはずのいい展開のラリーが1本とれなくて慌てちゃうとか。
いつもきれいな体勢で押し返せているボールが、ちょっと次のボールにつながりにくい体勢で打ってしまうとかっていうので押されてしまったので。
ただ、これって自分どうこうじゃないと思うんですよね。自分で「〇〇をしてうまくなる、強くなる」というのではなくて、そういういいボールをたくさん打てる人と練習する他ないと思うんですよ。
いま国内にあれだけの回転量のある人がいるかって言われると、数人いても、その人たちといつもできるわけではないし。例えば、それよりもっと上のレベルの今回優勝した選手とかに勝つためには、そのボールと同じくらいの質を常に取っておかなきゃいけないじゃないですか。
でも、やっぱりそれぐらいの速さ、安定感、質で打ってこれる選手が日本に数名しかいないっていうふうになると、日頃からそのボールを受けることができないんで。いざ試合に行くと、いつもより質の高いボールが来てやられてしまうっていう感じだったので。
海外選手、例えばヨーロッパの選手とかってすごい質も高いしボールが速いんですけど、サーブ・レシーブの緻密さではもちろん日本のほうが上、中国のほうが上っていう感じなので、どこを取るかなんですけど。
ずっと僕は10年間ドイツでプレーしていたんで、もう一回あっちに行って、揉まれてみるのはありかなって考えていますね。
ダブルスで張本智和選手とペア「これからが楽しみ」
ーダブルスについても聞いていきたいと思います。今回は張本智和選手(木下マイスター東京)とペアを組みましたが、いかがでしたか?
張本とは正直、あんまり練習時間を取れなかったんですよ。
というのも今回、張本は日本のエースとしてシングルスでもメダルが期待されているし、混合ダブルスでもメダルが期待されているし、もちろん男子ダブルスもあって3種目に出場だったので。
なかなか普段の練習から体力配分っていうのが難しいので、「どれだけ自分との時間を使っていいんだろう」っていう、正直、迷いというか気を遣ってしまった部分があったので。
強いて言うならそこがすごい後悔があったなって思うんですけど。また全日本選手権でも彼と組めるので、今回は年明けくらいから彼のいるところに行って一緒にプレーしたいなとは思っています。
ー張本選手とペアを組んでみての感想は
そうですね。ものすごい攻めの形が強い。やっぱり自分の持っている攻めの形に入ったときは、もちろん世界5位なんで、「すげーな、この攻めの形」っていう。
相手にいいボール打たれても、それを自分のボールにして返す能力とか、一回、台に入れ込む能力っていうのは本当に世界トップクラスですね。技術とか精神面の強さっていうのがあるので。
それを今回、練習が少なかったことで生かしきれなかったことはすごく残念なんですけど、ただ、彼も男子ダブルスで負けた後で混合ダブルスで2位になったじゃないですか。初めて世界卓球でメダルを取って。終盤のほうなんて、ダブルスの動きがすごい染みついていて、「数試合だけでこんなにうまくなるんだ」って見てて思ったんですよ。
なので、そうやって彼もダブルスの知識が蓄えられて行って、今後、日本のエースとなっていくから。その助けに、サポートになればいいなっていうのはすごく思うので。次の全日本までには少しでも時間使ってやりたいなっていう風に思っています。
ー張本選手とのプレーで心がけていることなどはありますか
自分の気を付けていたこととしては、自分が得意なことよりも張本がやりやすい、強いところにボールを返球させるような配球っていうのを結構意識はしていました。
ーそういうところを2人で話し合いながら組み立てていった?
そうですね。時間は少なかったけど、1試合やるごとに自分たちのダブルスがよくなっているっていう実感はあったので。逆に言うとまだまだ良くなるので。これからが楽しみです。
ー今後に向けて結構経験は積めたという感じですか
そうですね。逆に今の日本代表は世代交代で、ダブルスのペアリングっていうかマッチングっていうのも入れ代わり立ち代わりになってしまうっていうのはあると思うんですけども、
もし、次またどこかのタイミングでチャンスをもらうことができたら、今回の失敗を生かすように準備はしたいです。
「卓球は面白い」楽しみながら進化し続ける
ー今回の世界選手権での収穫はどんなところですか
一番は「卓球面白いな」っていう再確認。
今回、帯同していた濱田選手っていうのが本当に卓球大好きなんですよ。本当に卓球大好きで、見るのもやるのも大好きな選手で。僕ら試合が終わっちゃったあとって基本的に日本選手団が試合をしている以外はフリーになるんで、みんな各々自由に過ごすんですけど。
例えば今回、一番過酷な試合でいうと、夜中の11時50分スタートの試合があったりして、すごく過酷な日程だったんですけど、(濱田選手は)何時に試合があっても絶対に卓球場に行って試合を見ていたんですよ。
そんな彼と全部の試合を見ていろんな話をしていて、「こういう考えもあるね」とか「こういうことできるんじゃない?」みたいな。
いろんな見方があってやっぱり面白いなって思って。なんかそういう再確認ができたんで、それが僕にとっては一番収穫だったかなって思います。
ー最後に、今後の目標や意気込みを教えてください
これまでもこれからも全く変わらないんですけど、目の前の試合を一つ一つこなして、自分のベストの卓球人生を歩む。これだけですね、選手としては。
これまでもずっと一つ一つ目の前の苦しい試合を乗り越えて日本代表をつかんできましたし。これからもやることは全く変わらず、卓球を楽しみながら必死にやっていきたいなと思います。
ーありがとうございました
ありがとうございました!
【森薗政崇選手プロフィール】
1995年4月5日生まれ、東京都西東京市出身。青森山田高校、明治大学卒。BOBSON所属。中学1年から大学4年まで10年間、ドイツ・ブンデスリーガでプレーし、2018-19シーズンからはTリーグ岡山リベッツでプレー。
プロ卓球選手として現役を続けながら、2018年からはFPC株式会社の代表取締役社長としても手腕を振るう。男子ダブルス最高世界ランク1位。
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